中国進出の日系企業に向けて、人事・労務など幅広いコンサルティングを行います。
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心理的安全性という言葉を最近よく耳にします。高いパフォーマンスを上げるという目的に向い、社員の誰もが、相手を選ぶことなく、また言い方やタイミングを含めて、安心して、自由に発言ができる環境が、安全性の高い組織です。これを実現させるためには、高いレベルで「相互リスペクト」の存在が信じられる組織になっている必要があります。
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心理的安全性の高い組織には、秘密がほとんどありません。もちろん競争上の企業秘密は当然あるので、そこにアクセスできる社員に制限はありますが、少なくとも社員ひとりひとりが、「自分や自分の仕事に関係のある情報」を隠されているというようなことはほぼないことが前提になります。人事の世界で言えば、例えば、
一緒に仕事をしている人が、他にどのような仕事をしているのか知らない
組織図が公開されていない
給与テーブルが公開されていないし、自分の給与がどのようなプロセスで決まっているのかが分からない
などは、心理的安全性の低い組織に見られる典型です。
こういう会社では、「目の前にある自分の仕事だけやっていればいい」という心理が働き、工夫をしようとか、場合によっては権限を乗り越えてでも提案をしていこう、というような行動は現れてきません。余計なことを知ってしまったり、余計なことを言ったりすると、足元をすくわれるので、誰もが「最低限度、クビにされない程度」の受け身の仕事の仕方が定着していきます。
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うっかりと自分の弱みを見せることができないため、誰が何を言ったかに敏感になります。そもそもフォーマルに公開されている情報も少ない傾向にありますが、インフォーマルな発言も、「ここだけの話だけど」という前置きが付くようになり、社内に秘密のセクトが増殖します。
逆に心理的安全性の高い組織では、誰が言ったかではなく、何を言ったか、それは改善に繋がることなのか、に関心が集まります。良いことなら採用され、そうでもなくても発言したこと自体が賞賛されます。
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以前の本稿で、「部下を囲い込む上司」について述べたことがありますが、最新の研究でも直属上司以外とのコミュニケーションが少ない人材は、孤立する傾向が高くなり、結果、幸福度、エンゲージメントが下がり、パフォーマンスも上がらずに離職するという結果が示されています。
組織の統制という意味では、レポートラインを守ることは必要であるものの、そのことと縦横斜めの様々な関係を持って貰うように促し、部下が社内人脈を広げることを嫌がるマネジャーは残念ながらマネジメントに向いていないということなのだろうと思います。自分以外のルートから、自分の知らない情報が部下に入ることを恐れ、重要情報を自分経由でしか知らせないという上司は、その情報の持つ支配力を利用して部下を従わせようとしているということになります。
こういう上司がいる会社は、仮に会社(経営者)が一定の情報発信をしようと考えて実行しても、情報が目詰まりします。
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会社から発信する情報と、社員から集まる情報(これには社外や市場情報なども含まれます)とは、強い相関があり、会社からの情報発信は制限するが、社員からは情報を上げて欲しいということを指向される経営者にお会いすることもあるのですが、この「心理的安全性」という視点を持つと、そんな美味しいどこ取りはできないことがよく分かりますね。
皆様の会社では如何でしょうか?社員から提案が上がってこない、自律的に考えて行動してくれる社員が少ないなどの嘆きは、もしかすると、会社の情報発信、情報公開の姿勢から生まれているのかもしれません。
心理的安全性、単に「情報の扱い」だけで決まるわけではありませんが、かなり大きな一つの要素であるということを是非知っていただければと思います。情報管理規程なども、思い切って見直してみる時期に来ているかもしれません。
もし本レターに書かれたような症状に心当たりがありましたら、まず組織診断などで実態を明らかにし、またできるだけ早急に対策されますようお薦めしたいと思います。