中国進出の日系企業に向けて、人事・労務など幅広いコンサルティングを行います。
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昨今のアジャイルでVUCAな経営環境のもと(こういうハヤリの言い方、本当はあまり好きではないんですが)、人事制度においても、「加点主義」を標榜する企業様が増えてきていると感じます。
中国では一時期、「罰金」によって、やってはいけないことをひとつひとつ明示しないと経営が成り立たないかのような言い方が横行した時代もあり、流石にこれは現在では、労働法で禁止されています。
しかしながら、日系企業はそもそも、長く減点主義を続けてきたという背景があるため、掛け声だけは加点主義といいつつ、制度の実体は明らかな減点主義となっているという状況にあります。
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例えば、皆さんの会社には、「人事評価表」というものがあると思います。その評価表には、10項目とか、15項目とかの、コンピテンシーや、行動評価項目が並んでいて、それぞれ1点~5点で採点をして、合計で100点満点になる、というような形式の評価を行っておられませんか?
また業績評価に用いられる目標管理やKPI管理でも、4項目設定して、それぞれに40%、30%、15%、15%などのウェイトを付け、達成率を掛け合わせて合計で最大100点になるようなやり方にしておられませんか?
この形式を、減点主義人事制度と言います。
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なぜなら、例えば「創造性」という項目が、飛び抜けて優れていても、最高で5点にしかならず、一方で「プレゼン技術」が全然ダメ、という社員は、確実にその項目が2点(マイナス3点)などになってしまいます。
全項目5点、設定した目標全て100%達成で満点、という上限が決められている上に、何かひとつできないことがあると、そこから減点されていく。
加点主義人事では、飛び抜けてできる項目があれば、1項目で5点までではなく、10点や50点(!)が取れるようになっていなければおかしいし、ある目標を200%設定できた時に、全部集計したら、実績が150点でした、というようなことが可能な設計になっていなくてはいけない。
つまり、全然できない項目、達成できなかった目標があっても、合計100点(A評価)を取ることも可能だし、場合によっては100点以上(S評価)を取ることも可能、ということで、そのような制度になっていれば、これは加点主義人事ですと胸を張って言うことができます。
ご支援先のある会社で採用いただいた制度のひとつで、
15項目ある評価指標のうち、各社員が「点数を高く取れた10項目だけ」を集計する
というものがあります。
できない項目、苦手な項目、苦手じゃないけど頑張ること自体が辛い項目、ひとはそれぞれなので、得意な項目の裏側にそうしたものが必ずあるものです。
そこを克服しなさい!というポリシーで運用されるのが減点主義人事なら、そんな項目は捨てて、得意なことに邁進してください、というのが加点主義人事です。
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大変残念なことに、減点主義人事の元では、
彼/彼女は報告ができない
彼/彼女はしゃべりが下手で人間関係を築けない
彼/彼女は主体性がない
彼/彼女は計算をよく間違える
等々
というように、できないことを探して「×」をつけ反省を促しつつ、実は、
新しい発想力はすごい!
コツコツと業務を完遂する緻密さはすごい!
上司の意図をくんで資料を作るのはすごい!
周囲を巻き込む力がすごい!
など(だけ)が突出しているようなタイプはあまり評価されないということになります。
もともと人間社会は、異なる能力を持った個人が、それぞれの特性を活かし、苦手なことをカバーし合って発展してきました。にもかかわらず、高度成長の一時代において、画一的な人材が標準品を大量生産をすることで成功してしまった過去に囚われ、本質に戻れなくなっているのかもしれません。
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特に日系企業では、日本人経営者にとって「これはできなきゃおかしいだろ?」的な項目が網羅的に評価表に並んでおり、中国人社員にとっては、「言ってることは分かりますけど、苦手なんだよなあ」というものも多くあるというのが実態でしょう。
中国人経営者、中国人社員で構成されている多くの中国企業に、今、日系企業が次々と負けていっている事実が、まさに企業の活力の差を証明しています。それは人材を活用できていない、ということと同義であり、日系企業で冷遇され辞めた人材が、中国企業で新事業の責任者に抜擢され大活躍する、というような現象も、多々報告されているようです。
きっとその人材は、ホウレンソウや根回しができなかったんだろうなあと、企業様と人材の双方が気の毒になりますね。
御社で「できない」と決めつけられてしまっているような人材の中に、「実はすごい」人材が眠っている可能性があります。自分ができることを、他の方ができないと、イライラしてしまうという気持ちは誰にでもあるのでしょうが、そこを「おまえができないなら、そこはオレがカバーする、代わりにオレができないことをおまえ、やってくれ」という発想になれば、組織としてできる領域は格段に大きくなっていきます。
是非、そんな組織作り、そしてそれをバックアップする人事制度作りを行っていただきたいと願っています。