中国進出の日系企業に向けて、人事・労務など幅広いコンサルティングを行います。
またバックナンバーは、弊社HP(http://myts-hr.com/column.html)にございますので、よろしければ是非ご確認ください。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回の「エンゲージメント向上のための人事部門の仕事5」は、Stage3.「価値観を合わせる」の続きになります。
Stage1.社員が健全、健康である状態を作る
Stage2.社内コミュニケーションを活性化する
Stage3.価値観を合わせる
① 「価値観」とは何か?
② エンゲージメントを高めるために「価値観」はなぜ重要なのか?
③ 如何にして組織の「価値観」を合わせていくか?
前回は、特に「経営理念」として文章化、可視化された価値観が、十分に機能していない、そもそも十分に考えて作られていないことによって、却って弊害を生むケースなどを見てまいりました。
今回は、文章化されない価値観、行動規範(Invisible Value)がどう形成されていき、それがエンゲージメントに如何に影響するのかについて述べていきたいと思います。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、価値観とは、「組織の関係者が、物事を判断し、行動するにあたって、重要視する概念や、基準」のことですから、文章化されている(Visible)であるかどうかとは、本質的には関係ありません。むしろ心に刻まれている(Invisible)もののほうが、無意識の反応や瞬間瞬間での現場判断に影響しますので、より重要であると考えるべきでしょう。
心理学や脳科学を持ち出すまでもなく、こうした概念や基準は、
極めて強い印象を受ける出来事
繰り返されるパターン
によって、作り出され、定着していきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数年前、あるクライアント様より、次のような相談を受けました。曰く、
営業アシスタントの部下が、営業に変わりたいと言ってきた。この部下は非常に優秀で気も回り、ほぼ課長の秘書のように働いてくれていて、管理業務一切に加え、客先への電話やメール対応もしっかりやってくれている。おそらく営業に変われば、相応に活躍してもらえるのではないかと思われ、自分(総経理)は賛成である。しかし直属課長が断固反対しており、その理由は「もともと当該社員は事務員として、自分の要請で採用した。彼女が居てくれることで自分の仕事が非常にやりやすく、助かってもいる。その人材に営業として一本立ちされてしまうと私が困る」というものであった。どう対処したらよいか?とのこと。
強引に営業に職種転換すれば、課長がムクれるだろうことは想像できます。しかし、この個別ケースへの対処はともかくとして、このような課長の言い分が、社内で通る(もしくは通らないまでも、管理職にあるほどの人物が堂々と発する)ということに、問題の根があることをお判りいただけますでしょうか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
課長の言い分には、その底に、
部下のキャリア開発より、上司の便利さが優先される
部下の人事権は現場の直属上司が持つべきであり、経営判断より優先される
という価値観が見えます。この価値観はなぜ生まれたのでしょうか?
想像ですが、過去からの積み重ねが相当あったのだろうと思われました。おそらく、「部下のキャリア開発」を課長職の重要職務として明示していなかったか、明示していても二の次扱い(経営層や人事からのチェックや働きかけがなく、放任)され、課長自身が自分の売上を上げてさえいれば、組織運営に誰も口出ししなかった。さらに、この課長だけでなく、他の部門にも同様の考え方を持っている管理職がいて、同様の言動(部下を便利に使う)が常態化していた、かつそれが特に咎められることなく看過されてきた、ということでしょう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このような価値観が、Invisibleに存在する組織では、エンゲージメントは決して高まりません。優秀で成長意欲のある部下は辞めていくでしょうし、残った人材は、課長の顔色を伺うことが最優先になります。では、
上司の役に立つこと、上司に「助かるよ」と言ってもらえること
は重要ではないのでしょうか?もちろんそんなことはありません。それも重要です。ただ「優先順位」が違います。
このシリーズでお話ししております「エンゲージメント」では、何よりまず「自分自身の強みを理解し、活かし、伸ばせる環境があること」が最重要です。この課長は部下の希望を聞くこともなく、潜在的に営業資質が高いであろうことを認めず、その資質を伸ばし活躍してもらうことが会社にとっても本人にとっても価値あることだという理解ができていません。単に自分本位で部下を便利づかいできれば十分だと考えており、おそらく結果としても、自分個人の成績は良くとも、課としての成績にもかなりのばらつきがあるのではないかと思われました。
お聞きしてみると、その通りでした。
実はこうしたケースは珍しいものではなく、私どものご支援先でも時々発生します。対処としては、上司に対し、
課長職を下りてもらう(ただし中国の場合、おそらく辞める)覚悟で説得する
の一択なのですが、諸般の事情やコンサルタントの力不足もあり、お聞きいただけないことがあります。好ましくない価値観を持ったまま、継続して課長を続けられると、数年後に組織は瓦解します。上記のケースでは、部下がひとりを残し全員退職しました。他のケースでも大同小異。すぐではなくとも、2年3年の間に、部下が上司を見限り、そのような上司を放置する会社を見限るということになっていきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エンゲージメントの高い組織づくりで重視されるべき価値観は、最近のはやり言葉で言えば、「人的資本経営」ということになるのでしょう。ひとりひとりの人材の、多様な強みを活かし、中期的な成長と貢献を促すことが重要であるということが、目先の案件や上司の都合などより圧倒的に優先される、ということが当たり前に実践される必要があります。
次回はいよいよ、健全な価値観を形成し、組織に浸透させていくために、経営者や人事部はどのような施策を打つ必要があるのかについてお話していきたいと思います。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【執筆者紹介】
谷公爾 Tani Koji 札幌生まれ、茨城・兵庫育ち
広島大学工学部システム工学科中退、神戸大学経済学部卒、上海在住、満57歳
2003年から中国ビジネスに関わり、20年が経ってしまいました。戦略立案や営業強化などのコンサルティングを得意としてきましたが、せっかくの戦略が思った通りに遂行されない組織の問題に多く直面し、現在では人事組織強化のご支援が全クライアントの半数を超えるようになってきました。組織が変わり、業績が上がり、人材が元気になる。そんな企業作りをお手伝いしたいと思っています。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――【発行】
上海迈伊兹兰玺人材咨询有限公司
200030 上海市徐匯区虹橋路1号 港匯中心1座25楼
TEL:(8621)6407-8585(代表) FAX:(8621)6448-3589
MAIL:lanxi@myts-cn.com
配信停止ご希望の方は、お手数ですが上記メールアドレス宛に配信不要とご連絡ください。本ニュースレターを転送等でお読みいただいている方で、弊社からの送信をご希望される場合には、上記メールアドレス宛にその旨ご連絡ください。