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【人事の仕事シリーズ23】エンゲージメント向上のための人事部門の仕事1
皆様こんにちは。上海迈伊兹兰玺人材咨询有限公司の谷公爾です。上海で経営コンサルタントをしております。このレターは、弊社の谷、向井、龚がこれまでに名刺交換させていただきました皆様にお送りしています。毎月、中国における人事や労務の話題をお送りしておりますが、もし配信不要の場合、下記のアドレスへご連絡ください。
またバックナンバーは、弊社HP(http://myts-hr.com/column.html)にございますので、是非、ご確認ください。
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本年7月のメルマガで予告しましたとおり、今回から数回にわたり、「エンゲージメントを高めるための人事部門の仕事」とは何かをお伝えして参ります。
が、その前に、エンゲージメントとモティベーションや社員満足度と言われるものの違いについて確認しておきます。
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(1) エンゲージメントと、その他の概念の違い
【社員満足度】社員が、会社での処遇や仕事内容に満足している状態。給与や福利厚生の充実で一定程度高めていくことが出来るが、現状に「安住」してしまって、より高いレベルを求めなくなったり、パフォーマンスが上がらなくなることがある。
【モティベーション】仕事やその成果に対する強い意欲を持っている状態。本人の能力や欲求が会社で与えられる環境より高いと、ここではこれ以上の成長はできないと判断し、離職してしまうリスクが高くなる。
【エンゲージメント】会社と社員が強い信頼関係で結ばれている状態。価値観の設定を間違えると、会社ぐるみで不正を為すようなことも起こりうる。
かつて、社員満足度が持て囃された時代も、モティベーションが持て囃された時代もありましたが、これらは単純に「パフォーマンスと結びつきにくい」ことから、注目されることが減ってきています。エンゲージメントも勿論、万能ではありません。しかし、健全で強固なエンゲージメントが結ばれた組織では、自浄作用も働きますし、不具合や不満があるときに、まず自分にできることが何かを考えようという、好ましい習慣が社内に醸成されてもいきます。
皆様の会社でエンゲージメントの向上を目指して、実は社員満足度に注目してしまっていたりしないよう、是非、ご注意いただきたいと思います。さて、本題に入ります。
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(2)エンゲージメント向上の鍵は上司
まず理解しなくてはならないことが、エンゲージメントの鍵を握るのは、「直属上司」である、ということです。人事部門は、全社に対して方針や制度、施策を通じ、「間接的に」働きかけを行うことが多く、日々の社員の活動について、詳細を把握することは非常に難しい立場です。しかし、風土の良くない会社、人材が育たないと言われる会社からのご相談をコンサルタントとしてお受けし、状況を確認すると、そのほぼ全ての会社で、人事と管理者層とのコミュニケーションが取れていません。というよりも、人事部門が「聞く耳」を持っていません。
曰く、
・現場は勝手なこと(我が儘)ばかり言う、いちいち聞いていられない
・社員は会社の決めたルールに従うべきで、守れないなら辞めれば良い
ここまでネガティブでなくても、
・部下育成は各部門に任せてあり、人事が口を出すことではない
というような考えで、むしろ現場の実務について人事では分からないため、人事部門からの社員育成はせいぜい研修を用意するくらいしかできない、と思ってしまわれている方もおられます。
人材育成を「実務の知識見識を獲得させること」という狭い定義にしてしまえば、上記の通りにもなり得ますが、エンゲージメント向上策、社内風土改善策を考える際に、このような考え方が好ましくないことは自明であろうと存じます。人事理論の詳細を勉強しているわけではない現場の上司達に、正しい育成行動を取っていただくために、とは言え、現場の実態も分からずに空理空論で進めるようなことにならないように、という部分は非常に重要です。
だからこそ実際に「上司達」がどのような考えを持って、どのように振る舞っているかを知っておかなくては、人事が何をしても空回りします。アンケートでも1on1でもオフサイトミーティングでも、何でもいいのですが、「上司達」が人材マネジメントで困っていることを、人事部門は丁寧に聞きとってください。
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(3)エンゲージメント向上策への取り組み順
エンゲージメントの向上を図ろうと考えると、まずは「理念や行動規範を徹底浸透させよう」とか、「もっとやる気を出して貰うために成果連動の報酬を設定しよう」などの施策が浮かびがちです。
そうした策に効果がないわけではないのですが、ここで再度、思い出していただきたいのが、「エンゲージメントとは信頼関係である」という点です。そして仕事をする会社という場所で、信頼関係を結ぶ際に、何よりも重要なこと、大前提になることが、「お互いに健康である」ということではないでしょうか。少なくとも、お互いの健康について、最大限の感心と配慮がなされている、ということが失われている状況下では、どんな理想を述べても、「こっちはそれどころではない」と思われるだけになります。
よって、エンゲージメント向上への取り組みは、その対象とするテーマとして、下記の順番を守っていただく必要があります。
Stage1.社員が健全、健康である状態を作る
Stage2.社内コミュニケーションを活性化する
Stage3.価値観を合わせる
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(4)Stage1.社員が健全、健康である状態を作る
なんとなく正しく聞こえるのですが、実は結構ブラックと申しますか、相手に対する信頼を失わせかねない言い方に「健康管理も仕事のうち」という、かつて日本企業で流行った言い方があります。
各社によってかなりの差がありますが、体調が悪かったり、病気になったりした時に、そのことに対して「自己責任」として、法定以上の対応をしない、という会社は珍しくありません。程度問題であるということは承知の上で申し上げますが、社員目線では、「安心して病気できない」という状態は、非常に冷たい関係に感じられます。社員側も甘えることは好ましくないにせよ、公私にハードワークが続いて体調を崩すこともありましょうし、疫病の流行で、不運にも罹患してしまうこともあります。
そうした際に、「会社は決して見捨てない」「できる限りのサポートをしてくれる」と信じられる状態は、信頼関係を築く上の基礎中の基礎です。マズローの理論を待つまでもなく、生存欲求、安全欲求が脅かされた状態で、それ以外のことなど考えられくなるのは当然のことですし、逆に、ここを会社が守ってくれることは、この上ない安心感に繋がります。
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今月はここまでにいたします。次回は、このStage1.を確保する上で具体的にどのような取り組みができるのか、またStage2.以降でどのような施策が有効かなど、お話ししていきます。
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谷公爾 Tani Koji 札幌生まれ、茨城・兵庫育ち
広島大学工学部システム工学科中退、神戸大学経済学部卒、上海在住、満56歳
2003年から中国ビジネスに関わり、まもなく20年になろうとしています。戦略立案や営業強化などのコンサルティングを得意としてきましたが、せっかくの戦略が思った通りに遂行されない組織の問題に多く直面し、現在では人事組織強化のご支援が全クライアントの半数を超えるようになってきました。組織が変わり、業績が上がり、人材が元気になる。そんな企業作りをお手伝いしたいと思っています。
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