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長時間トイレから出てこない従業員を解雇できるか。
1 長時間トイレから出てこない従業員
中国でも日本でもたまに「長時間トイレから出てこない従業員にどう対応したらよいか」という相談を受けます。
本事例では、かなりの長時間トイレから出てこなかったため解雇に至ったものです。珍しい事例ですので取り上げました。
2 事例
王は2006年4月にD社に入社し、2013年4月19日に無期限の雇用契約を締結しました。
2014年6月1日、同社は特別任務室を設置し、王志栄をこの特別任務室に異動させました。特別任務室には、王1人が常駐し、総経理が直接管理して、総経理から与えられた関連業務をこなしていました。
2014年12月22日、王は病院で肛門の手術を受け、2015年1月中旬に傷は治りましたが、王はその後も痛みが出ていると述べました。
2015年7月から、王は1日3時間から6時間、トイレで過ごしていました。 2015年9月7日から17日まで(9月13日を除く)王は1日に2~3回、計22回トイレに滞在し、1回の滞在時間は47分~196分、1日の滞在時間は3時間50分、4時間28分、4時間18分、2時間32分、4時間35分、4時間16分、4時間29分、4時間 01分、5時間29分、5時間22分でした。
2015年9月22日、 会社は、同社の労働組合の書面による同意を得て、「懲戒解雇通知書」を発行しました。当該解雇は就業規則第79条第1項第3号の「1か月以内の遅刻、早退、自己都合による無断欠勤」違反を理由とするものでした。
3 判決内容
一審・二審判決:1日8時間しか働かないのに、トイレにいる時間は2日間で3時間50分と2時間32分、残りは4時間以上、2日間でも5時間半近くに達し、トイレの通常の範囲を超えている、会社の解雇は合法である。
裁判所は、就業規則第45条第2項には、「従業員が勤務時間中に業務外の理由で離職しなければならない場合は、事前に上司に理由と行き先を説明して離職の許可を得なければならない」と記載されていること、同44条3項が「一定期間内に業務以外の理由で勤務していない社員は、欠勤とみなす」と規定していること、 第45条第1項では、「従業員は、就業時間中は業務に専念しなければならず、原則として、外出、会議等の私的な理由による離職は許されない」と規定されていることから、就業規則には、私的な理由による職場離脱を許さないことについて明確に記載されている。
裁判所は、王のトイレでの長時間の滞在は、私的な理由による職場離脱に含まれ、その行動は就業規則に違反するものであると判断し解雇を有効と判断しました。
4 実務上の留意点
(1)「生理現象だから仕方が無い」との言い訳について
この種の事例では「生理現象だから仕方が無い」との言い訳を言って反論してくることが多いです。そのため、本事例のように回数、滞在時間などを克明に記録する必要があります。あまりにも滞在時間が長すぎれば単に仕事をさぼっているとの推定が働くからです。トイレの中にカメラを設置することはもちろんプライバシー上許されませんが、トイレ付近の廊下にカメラを付けること自体は問題ないと思います。本件でもおそらくカメラにより時間等を特定したものと思われます。
(2)就業規則の記載について
就業規則にはもちろん「長時間トイレから出てこないこと」などの記載はありませんでしたが、裁判所は他の同種の規定を解釈して解雇を有効と判断しました。
中国の裁判所は杓子定規に就業規則を解釈することが多いのですが、さすがに本事例では柔軟に解釈して解雇を有効と判断しました。
事件番号:(2016)津民申1636号(当事者仮名)
以上