中国進出の日系企業に向けて、人事・労務など幅広いコンサルティングを行います。
2022年2月から、2年ぶりに中国全土に再び新型コロナウイルスによる感染が蔓延し始めております。
今回、中国政府は2020年の通達を変えずに企業に対応を求めているように思えます。そこで、2年前の通達をもとに実務上起こりうる人事労務の諸問題についてQ&A方式で記載しました。
1 労働者が医療機関に隔離されている期間や医学観察期間の賃金はどの程度支給すればよいでしょうか?
本来は、病気休暇扱いになり、各地方の定める基準や就業規則の定める基準に従って賃金を支払えばよいが、今回の新型コロナウイルスに関連して労働者が隔離されている期間や医学観察期間は本来の契約で定めた賃金を支払わないとならない。
2020年1月24日に発せられた「人力资源社会保障部办公厅关于妥善处理新型冠状病毒感染的肺炎疫情防控期间劳动关系问题的通知」(人社厅发明电[2020年]5号)では、新型コロナウイルスに関連した隔離・医学観察期間中は、「企業は正常な労働を提供できない労働者については、この期間中の労働報酬を支払わなければならない」と定めています。
2 突然マンションが封鎖され、工場に出勤できず、自宅で在宅観察生活をする必要がある場合、その賃金待遇はどのように確定すればよいでしょうか?
現在の中国では、突然マンションが封鎖され14日間等在宅観察する必要がある場合が多く、そのような場合の賃金待遇をどのように扱わないといけないのかが問題となります。
基本的には従業員との話し合いによりますが、上記通達(人社厅发明电[2020年]5号)の存在からして、ほとんどの地域は原則として企業は、在宅観察期間中で在宅勤務ができない場合であっても労働契約にもとづく賃金を支払わなければならないと取り扱っています。
3 企業が新型コロナウイルスの影響で操業停止になった場合、従業員の給料についてはどう扱えばよいでしょうか?
日系企業は自動車等では中国全土にわたるサプライチェーンが稼働することを前提とした生産活動を想定しています。現在のままでは長期の生産活動の停止につながる可能性があります。「人力资源社会保障部办公厅关于妥善处理新型冠状病毒感染的肺炎疫情防控期间劳动关系问题的通知」(人社厅发明电[2020年]5号)では、そのような場合も、1ヶ月以内の操業停止で留まるのであれば労働契約に定めた賃金、1ヶ月以上の操業停止に渡る場合は一部正常な労務の提供ができるのであれば最低賃金以上、労務の提供ができないのであれば各地方政府の定める基準による生活費を支払わないといけないと定めている。この点は社会主義国会の考えが色濃く出ています。
具体的には、北京市、上海市共に以下の通り定めています(「关于做好疫情防控期间维护劳动关系稳定有关问题的通知」(北京市)、「应对新型冠状病毒感染肺炎疫情,本市人社保障措施细解」(上海市))。
企業が新型コロナウイルスの影響を受けて操業を停止した場合、一賃金支払周期(最長30日)を超えない場合は、通常の勤務時間に応じて賃金を支払わなければなりません。一賃金支払周期を超えた場合、従業員から提供された労働に応じて、双方が合意した基準に基づいて賃金を支払うことができ、企業が従業員の仕事を手配できない場合は、現地の最低賃金を下回らない労働生活費を支給しなければなりません(北京市は最低賃金の70%を下回らないこと)。
4 従業員の隔離治療期間中または医学的観察期間中、または政府が隔離措置を実施する等その他の措置期間中に労働契約期間が満了した場合、企業は契約期間満了を理由に労働契約を終了することができますか?
従業員の隔離治療期間中または医学的観察期間中、または政府が隔離措置を実施する等その他の措置期間中に労働契約期間が満了する場合には、企業は前述の期間内に契約満了を理由に労働関係を終了することができません。
この点については、感染した又は疑いがある場合には隔離治療・措置が取られることになりますが、「人力资源社会保障部办公厅关于妥善处理新型冠状病毒感染的肺炎疫情防控期间劳动关系问题的通知」(人社厅发明电[2020年]5号)において「企業は正常な労働を提供できない労働者については、労働契約期間が満了する場合においても、それぞれ労働者の医療期間、隔離期間満了または政府が実施する緊急措置が満了するまでは期間を延長する」と定めています。そのため、従業員の隔離治療期間中または医学的観察期間中、または政府が隔離措置を実施する等その他の措置期間中に労働契約期間が満了した場合には、企業は前述の期間内に契約満了を理由に労働関係を終了することがでません。なお、前述の労働契約期間の延長は、企業が従業員と別途書面労働契約書に署名する必要はありません。
5 企業は隔離治療期間あるいは医学観察期間中、または政府の隔離措置の実施期間中に対象者が労務を提供できない場合、リストラ解雇、普通解雇(従業員の病気による労務提供不能の場合、職務に耐えられない場合、労働契約の締結時に根拠となる客観的状況に重大な変化が発生した場合)を理由に労働契約を終了させることはできますか。
企業は隔離治療期間あるいは医学観察期間中、または政府の隔離措置の実施期間中に対象者が労務を提供できない場合であっても、リストラ解雇、普通解雇はできません。
「人力资源社会保障部办公厅关于妥善处理新型冠状病毒感染的肺炎疫情防控期间劳动关系问题的通知」(人社厅发明电[2020年]5号)においても、新型コロナウイルスに関連した隔離・医学観察期間中は、「労働契約法第40条(いわゆる普通解雇)、第41条(いわゆる整理解雇)にもとづき労働者との労働契約を解除してはならない」と定めています。
まとめ
改めて読み返してみると企業にとっては厳しい内容です。企業にとって不可抗力に近い内容であっても、解雇はもちろんのこと、なるべく通常の賃金を支払うように求める内容です。在宅勤務ができる職種であれば良いのですが、製造業では工場が稼働せず企業も多大な損失を被る中、企業に負担を求める内容となっております。もっとも、中国政府も2年前と同様に、今後減税、社会保険料の減免などを施策として実施する可能性もありますので、今後の展開に注意する必要があります。
以上