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1 契約更新についての駆け引きにおける注意点
上海を除く多くの中国の地域では、労働契約を一度更新してしまえば(上海は二度目が多い)、事実上無固定期間の雇用契約を締結しなければなりません。そのため、一度目の更新が非常に重要になります。雇い止めをすることは簡単ですが、「会社としてできれば更新したいが、給料は上げたくない」などと駆け引きをすることになります。従業員側も「更新したいがなるべく大幅な賃上げをしてもらいたい」として、なかなか契約更新手続きが進まず、お互い折り合わないことがあります。
今回は契約更新の際のトラブルを取り上げてみました。
2 事案
張は、2013年5月1日、北京の生命保険会社に入社し、入社後、雇用契約を締結した。
2019年6月30日に雇用契約が満了するため、2019年4月24日、会社は張に雇用契約の更新通知を送り、張が引き続き雇用契約を更新することに同意するかどうかを尋ね、更新された場合、2019年7月1日から始まる無固定期間の雇用契約となり、更新されない場合、現在の有効な雇用契約は失効し終了となることを示した。 張は、2019年4月28日、無固定期間の雇用契約更新に合意した。
2019年6月29日、会社はWeChat以下の通り通知した
「張さん、あなたの労働契約は2019年6月30日に満了し、あなたの仕事内容、収入基準は元の人事基準に従って実施されます。 さて、あなたが2019年6月30日に当社と雇用契約を締結しない場合、自己都合により雇用契約を更新しないものとみなし、その時点で当社との雇用関係は2019年7月1日に正式に終了しますので、ご承知おきください。」
張無極は、「わかりました、サインします。ただし、新しい契約では私の職位が変わったにもかかわらず、給料が具体的に変わっておらず不明確です。」と答えた。
会社は、2019年7月1日付で、雇用契約を終了することを決定した。
張は、雇用契約の違法な解除に対する補償として、会社に68,662.2人民元の支払いを求め、労働仲裁を申請した。
2019年11月20日、労働仲裁委員会は、雇用契約の違法な解除に対する賠償金として、張に68,662.2人民元を払うよう命じた。
会社はこれを不服として訴訟を起こした。
3 判決内容
【一審】会社敗訴
第一審は、雇用契約の終了は雇用契約期間の最終日の24時を基準とすべきであり、会社が2019年7月1日に行った解雇決定は2019年6月30日の24時を超えており、違法な解雇であり、賠償金の支払いを要すると判断した。
会社はこの決定を不服として控訴した。
【二審】会社勝訴
二審判決は、「2019年7月1日をもって雇用関係を正式に終了する」という会社の通知は、既存の雇用契約満了後の終了を表明したものであり、違法な解雇ではないと判断した。
2019年6月29日に会社が発行したWeChatの通知について、その内容は、2019年6月30日の雇用契約満了前に張に雇用契約の更新を通知し、その時点で両者が雇用契約を更新しなかった場合の法的結果を知らせるもので、「雇用関係は2019年7月1日に正式に終了します。 2019年7月1日に雇用関係を正式に終了する」という会社の声明と、2019年7月1日以降の張蕪樹の社会保険料の停止は、いずれも既存の雇用契約の終了後に行われた措置であった。 張無極の「解雇行為である」という主張は根拠を欠く。
両者が雇用契約を締結できなかったのは、張無極が事実上の行為によってそれを拒否したためである。
4 実務上の留意点
WeChatで通知をするというのはいかにも中国らしいですが、WeChatでも良いので、この会社の様に回答期限を決めて、「いついつまでにこの内容で契約するか返事をしてほしい、返事がない場合は不更新とする」と通知をする必要があります。
ちなみにWeChatが証拠として価値を認めるようになったのは最近からで、以前は偽造した、しないで証拠として価値が低いと言われていましたが、さすがに最近はWeChatが生活やビジネスに浸透しているので証拠としての価値は認められてきたようです。
事件番号:(2021)京民申570号(当事者仮名)