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「エンゲージメント向上のための人事部門の仕事」も、とうとう6回目になってしまいました。今回が最終回です。Stage3.「価値観を合わせる」における、③「如何にして組織の価値観を合わせていくか」についてお話ししたいと思います。今回はいつもより少し文字数が多くなってしまいましたが、お付き合いいただけますと嬉しいです。
さて経営層や人事部門の皆さまであれば、自社の社是、社訓、経営理念など、Visible Valueは、当然諳んじておられることと思います。いっぽう、一般社員にこれを訊ねると、必ずしも一言一句正確に返ってくるとは限りません。では、自社の価値観を合わせるために、こうした文章を朝礼での唱和や、繰り返しの研修などでしっかりと根付かせていけば良いでしょうか。
形式や場面設定はどのようなものであってもいいのですが、重要なことは「問いかける」ことであるという原則を是非知っておいていただきたく思います。経験が不足していたり、思考する習慣をこれまであまり持たなかったというような人材の場合、「教える」ということも必要な場合がありますが、そもそも「価値観」は、教えられて身につくものではありません。その意味で、朝礼や研修はどうしても一方通行になりやすいので、それだけでは難しい面がありますね。
ひとりひとりが、自分自身で「そうだよなあ、そうあるべきだよなあ」と心から納得するのでなければ、それは「価値観」ではなく、「規則」です。規則にさえ従っていれば良い、という考え方や行動が浸透している組織では、規律正しく粛々と業務が進むかもしれませんが、エンゲージメントが高まっていくことはほぼなく、気が付くと「受け身」の社員ばかりになっていた、ということが起こります。
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では、社員ひとりひとりに、
・自社の組織で共有されるべき価値観はどのようなものであるべきか
・それは日々の活動の中でどのように発揮されるものか
を考えてもらい、納得してもらうために、人事部門にできることは何でしょうか?
実は答えは簡単です。
(1) 現場から継続的に実例を拾ってくること
(2) 事例を解釈し、社員に「問いかけ」として発信すること
(3) 問いかけに対する反応をまた拾ってくること
ほぼこれだけ、と言っても過言ではありません。もちろん、拾ってくる実例が偏らないよう満遍なく全部門を対象にする必要がありますし、直属上司が知らないような事例を人事部門が勝手に発信した、というようなおかしな問題を発生させないような配慮も必要、等々の注意事項はあります。
ただ重要なポイントは「事例を抽象化した概念で説明すること」と、「抽象化した概念を敷衍すると、今回の事例以外にどのような行動がこれに該当しそうかを具体的に展開できること」です。これを、組織の全管理職ができるようになるといいのですが、なかなかハードルが高いため、まずは専門部署である人事部門が、このスキルを磨き、組織に提供していく必要があります。
上記(2)の「事例を解釈」する段階では、いわゆる「評価」は避けていただくことが無難です。社員に問いかけ、考えてもらう必要がありますので、良いとか悪いとかではなく、シンプルに「こういうことがあった。これは〇〇という考え方に沿った△△行動ということができるのではないか。皆さんはどう思いますか?」というだけでいいのです。
自社の経営理念に沿った行動を探してこようとか、成果が上がった、お客様から褒められたなどの成功事例を探してこようなどと、「よい事例」を集めようとするとバイアスが掛かります。バイアスが段々と強化されていくと、宗教的と言われたり、ブラックと言われたりするような、盲目的な価値観に誘導してしまうことが起こります。これもまた、エンゲージメント経営とは逆行します。
徹底してニュートラルに、社内にある様々な行動を、
・抽象化するとこういう言葉になる
・抽象化された言葉を再度具体化するとこういう行動になる
という事例として作り続け、発信し続けることが、ここでの最重要ポイントです。
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そんなこと言われても、じゃあ具体的にどんな例を拾ってきたらいいの?と思われた方がいらっしゃると思います。その時は、本ニュースレターの「エンゲージメント向上のための・・・シリーズ」を是非読み返してみてください。
・健康管理をこんな風に行っている社員がいます
・毎月の目標達成のために、こんな取り組みを行っている部門があります
・あるチームで交流を深めるためにこんな企画をしました
・直属でない上司からもらったアドバイスが役にたったという社員がいます
・社員の〇〇さんが業務に直結はしないものの、こんな資格を取得しました
・部署替えになった社員が業績を一気に伸ばし始めています
・お客様から〇〇の理由で叱られました
等々、なんでも材料になりますが、あまりネガティブなものは展開しにくいですし、個人の尊厳やプライバシーに関わることは当然NGです。
エンゲージメントに影響する要素は、達成感、連帯感、公平感であるということを、以前にお話ししておりますので、何かしらこうした要素に繋がるような話であれば、より好ましいかなとは思います。
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なぜ、人事がこうした事例と解釈を組織に向けて発信することが、エンゲージメント向上のための施策、組織の価値観を合わせる効果を生むのでしょうか。できれば人事部門だけでなく、経営トップ、経営層の皆さまからも、同様の発信をしていただけると良いと思いますが、これは、以下のようなメッセージになっています。
・自社では、決まった価値観を押し付ける積りはない
・ひとりひとりの社員が納得できることは何かを考える習慣を持って欲しい
・考えたことを開示し、共有して欲しい
また、このようなテーマで考えることや、考えて納得したことを次の機会に自分の行動にするためには、抽象化スキル、標準化スキル、具体化スキル等の実務スキルとは少し異なる能力が求められるため、その見本を示すという意味があります。
さらに上記の(3)「問いかけに対する反応をまた拾ってくる」ことは、思考を深めるということに加え、明らかにおかしいと思われるような反応になっていないかをチェックするという機能も持たせています。(2)の解釈段階では評価を避け、ニュートラルに発信していただくことが重要でしたが、その結果、例えば「結局、会社が儲からないとダメだよね」とか、「客の言うこといちいち聞いてられないよ」のような反応になってしまうこともあります。これを放置すると、「利益至上主義」「顧客軽視」などの方向に進んでいってしまいかねません。
上記のような場合なら、
・会社の利益とは、我々の事業が社会に必要とされている証左である
⇒利益の上がらない事業は、根本の「効用」から見直すべき
・カスハラを排除し、良いクレームを糧とすべき。その際、「良い」の定義は何だろう?
のように、改めて抽象化の方向を微修正していく必要があります。
これを是非、最低3年間は継続してください。単に発信するだけで、社内の反応が乏しい場合は、研修会、勉強会、経営者からの講話で取り上げてもらう等々の仕掛けも併用します。人間はそもそも「社会的な動物」ですので、所属する社会(ここでは自社)で、継続して話題になっているテーマを完全に無視することは本能的にできません。また、いくら自分の考えが皆と違っていても、明らかに違うままで所属し続けることもできません。
話題になっていないことなら、考えが違ったままでもやり過ごせてしまいますが、行動を可視化し、解釈し、どんな価値観なのかを考える、ということを明示的に実行し続ける組織では、必ずひとつの「社会」として、向かうべき方向が定まっていきます。また、生存欲求、承認欲求、自己実現欲求を持たない社員さんもいないはずなので、特定の環境下で、自社事業を成功させるために、またその事業に誇りを持つために、選択される価値観は、必ず妥当なものに収斂していきます。
恣意的な方向付けをするよりも、ごくごく健全に、組織の価値観を合わせていくことができていきます。
3年後、圧倒的に高いエンゲージメントを持った組織になり、社員たちが信頼しあい、生き生きと働けていることを目指し、是非試してみていただきたいと思います。
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【執筆者紹介】
谷公爾 Tani Koji 札幌生まれ、茨城・兵庫育ち
広島大学工学部システム工学科中退、神戸大学経済学部卒、上海在住、満57歳
2003年から中国ビジネスに関わり、20年が経ってしまいました。戦略立案や営業強化などのコンサルティングを得意としてきましたが、せっかくの戦略が思った通りに遂行されない組織の問題に多く直面し、現在では人事組織強化のご支援が全クライアントの半数を超えるようになってきました。組織が変わり、業績が上がり、人材が元気になる。そんな企業作りをお手伝いしたいと思っています。
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